話すことで癒される仕組み

メンタルヘルス

表現を押しとどめられることの弊害

人は話す生き物です。話すことはコミュニケーションであり、表現です。

表現をしようとした時に抑えると、流れを突然せき止められたような、不自然な感じがします。何か言おうとした時に強く遮られたり、意味のないものと扱われたりすると、体に違和感がかなりはっきり感じられると思います。このようなことが頻繁に起きると、少しずつ、心身に緊張感のレイヤーと反応パターンが作られていきます。

もちろん、私たちの思いがいつも100%伝わるだろうと考えることは現実的ではありません。我慢をしなくてはならない状況もありますし、やりすごすことが良い場合もあります。でも、毎回のように表現や理解が阻害されてしまうと、緊張感をつくるのは事実です。

緊張感がつくられるだけではなく、このような状況は、「これは言ってはいけないことなんだ」「私がこう思うのが、こう感じるのがおかしいのだ」というメッセージを深層意識に送ります。すると、自分に自信を持てなくなったり、落ち込みやすい土壌をつくってしまいます。

緊張反応が形成され、過剰に反応しやすい状態がつくられます。

特に、幼少期にこのような緊張がつくられると、性格パターンとして残りやすいものです。

過ぎ去った過去は必ずしも終わっていない

私たちはよく、それは「過ぎ去ったことだよ」「もう忘れろ」「成長しろ」などといって、思いを葬り去ろうとしてしまいます。これは、どの社会でも起こり、よく聞かれることです。しかし、これらの言葉がいつも効果的かといったら少し疑問で、心のしくみに関して間違った考えに基づいている感があります。

つまり、「出来事が終われば、感情も体の反応もすぐに終わるに違いない、またはそうでなければいけない」という思い込みです。

しかし、実際に心身を観察すると、程度の差こそあれ、反応は余韻のように続くことがわかります。表立ってあらわれなければ、バックグラウンドで反応が続くかもしれません。

これは、大人になることと関係ない、心身の反応なのです。

「忘れろ」といわれると、心身反応を終了するどころか、逆に閉じ込めて持ち続ける、ということにもなりかねません。さらに、無理強いされることへの反発から、「いや、忘れられない。忘れたくない」と反対に、思いを強固にする心理が働くこともあります

感情の"荷物"を捨てよう
私たちの心には、感情の「荷物」がたくさんあります。 これらは、心の傷や、鬱屈した感情ー怒り、悲しみ、後悔ーなどです。心が「重い」と感じるのは、このような「荷物」がたくさんあるからです。

話すことで未完了の表現を終える

言いたいことがいえないストレスは、自分の中で、行き場をなくしたエネルギーとして感じます。表現できないから、そのエネルギーがとどまっていて、嫌な気分になるのです。圧力鍋に圧力がだんだんとかかってきて、だんだん熱くなっていくのと似たような感じで、プレッシャーが高まります。

しかし、話すことができると、その閉じ込められたエネルギーが抜けていくことができます。圧力鍋のプレッシャーが落ちるように気持ちが鎮まります。

私が初めて話すことのパワーを知ったのは、大学院の必修科目であるグループセラピーのクラスです。グループセラピーのやり方を理論的・体験的に学びながら、順番にセラピストの役割をし、残りの人はクライアントとして自分たちの実際の感情問題をシェアし合う、という精神的にかなりきついものでした。

ある時、私が長年ほとんど人に言わずにいた問題と同じことを話す人がいました。私は心がものすごく苦しくなり、どうしようか迷いました。結局そのクラスでは勇気が出なくて何も言えなかったのですが、家に帰り、よく考えて、次回は絶対に言おうと決めました。理論によると、こういう時に勇気を出して言うことが癒しの突破口になるということなので。

そこで、次のクラスでまたその話題が出た時、私も同じような経験をしている、と発言し、自分の複雑な感情をシェアしました。

すると、体から緊張感が取れ、心がすっとし、驚くほどほっとしました。こんなことで?と思うくらいでした。

実はその事柄に関しては、思い出すと苦しく、悩んでしまうけど、終わった問題、つまり話す必要のない問題と位置づけていたのです。しかし、その話題を聞くことで動揺したこと、話した時に心がものすごく軽くなったことから、いかに自分が心の隠れた場所でひそかに悩み続けていたか、負い目に思っていたかが、はっきりとわかりました。

その夜、そのトラウマを象徴するものが、私から去っていくという夢を見ました。そして、私はこの件に関して、完全に癒された、真に終わった、と感じ、以後悩むことも、思い出して苦しむこともなくなりました。

他者の存在のパワー

人に聞いてもらう、自分の気持ちを認めてもらう、心理的な心の動きを正当化してもらう、ということにはパワーがあります。

人は傷ついている時、苦しい時、トラウマの影響を受けている時には、思考もネガティブに、弱くなりがちです。自分の苦しみを、批判的な目ではなく、あたたかい受容の目で誰かが認めてくれた時、ふっと楽になります。心がゆるむと自分の力が出て、それをよりどころに苦しみから自由になることもできるのです。

話すだけですべての心の問題が解決するわけではありません。しかし、感情解消の様々なメソッドを用いる場合でも、自分の問題を話し始めた時点で、すでに癒しのプロセスは始まっているのです。

無条件のポジティブなまなざし (Unconditional Positive Regard)
Unconditional Positive Regard無条件のポジティブなまなざしとは、クライアントを一個の人間として尊重、受け入れるというセラピストの態度が癒しと成長を促進するということです。このような「まなざし」は、私たちが自分自身に向けるべきものでもあります。

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